写し 4 ラインフォーカスと体の向き
写し
4 ラインフォーカスと体の向き
私のクライアントでカリスマ的な男性がいます。身長190センチ、体重90キロの大柄な人です。彼は仕事上色々な人と人間関係を構築し、その関係を保たなくてはなりません。大勢の人前で話す時の彼には堂々とした存在感があります。しかも、個人レベルで対応することにも秀でているのです。時には、その堂々とした存在感を、威圧感がない温か存在へと変化させることができます。そして、また聴衆再び部屋全体を一瞬にして掌握するスキルを持っています。
前回のエピソードでは、ラインフォーカスについて基本的な考えを紹介しました。ここではさらにそれを使い、コントロールする方法を考えていきます。
それでは、早速ラインフォーカスと体の向きについて説明していきます。
まず、体の向きを表す図を描いていきます。ここでは演劇学から学べる言葉を引用して、コミュニケーションをとる時の体の向きについて考えていきます。これから描いていく図は、対人、対物、さらには対空間の位置関係も含んでいます。
それでは、まず何もない部屋の床に大きな円を描くところから始めましょう。そして、その円を半分にするように真ん中に線を一本引きます。それから、その線と交差するように円を4等分する線を引きます。最後に、それぞれの線の間に、円の端と端の2点を結ぶ線を引くと、円を八つ切りにする線が描けます。
あなたは円の中心にいます。そこで、あなたの目の前にある点に、あなたに面と向かうように人を置きます。この点、つまりあなたに正面を向いて立っているこの人の位置を「フルフロントポジション」とします。その隣りの点のそれぞれ2点にまた人を置きます。それぞれの人の体は、真正面からは少し左または右斜めになりますね。この位置を、「クォーターターン」といいます。次は、円の真横、つまりコンパスでいうと東西を指している点に人を置きます。中心からみると、横顔しか見えていないはずです。この位置を「ハーフポジション」、または「プロファイルポジション」といいます。続いて、そのまま円をたどっていくと、ハーフポジションを結んだ線に対しクォーターターンと正反対の位置に点があります。ここに人を置くと、その人はあなたからそっぽを向いた状態になります。この位置をスリークォーターターンと呼びます。最後に、フルフロントポジションの真反対にあり、あなたからはそこに立っている人の背中しか見えない位置を「フルバックポジション」と呼びます。
では、これらの位置が、ラインフォーカスについて考えるときどのような意味を持つのか説明していきましょう。フルフロントポジションにある人は、ラインフォーカスを100%あなたに向けている状態です。前回のエピソードで、胴体を囲む四角を描いたのを覚えていますか。この「フルフロントポジション」では、その四角を真正面に見ることができるでしょう。この位置は、最もフォーマルな状況、対立的な場面、または全面的な注意を払うべき場面で用いられるでしょう。
例えば、教室内の教師と生徒が向かい合っている状態、これがフルフロントポジションです。または、雇用主と従業員が机を挟んで話し合っている様子などが考えられます。あるいは、映画館や劇場の座席はスクリーンや舞台に正面を向いていますね。観客のエモーショナルセンターと目の前で起きている出来事の間では直接的な情報交換が行われているのです。
クォーターターンの位置では、ラインフォーカスが真正面から向けられていないので、双方の関係はより緩やかなものになります。この位置では相手からの関心や注目を受けることはできますが、フォーマルではなく、対立的な印象を受けることもありません。このクォーターターンで、エモーショナルセンターが正面から少しズレた状態だと、相手への応対が強制されにくい状態でコミュニケーションを円滑に進めることができます。この位置は、社交の場、またはカジュアルなプレゼンの場、あるいはよく知っている相手同士や、親密な関係の人同士の間によく見られます。あるいは、パーティーやバーで人と接している時、本を観衆に向けて読む時、大きなグループで話すときにそこにいる人たち全員が等しく加わることが出来るようにしている状況でみられるはずです。
円の半分にあたるハーフまたはプロファイルポジションでは、ラインフォーカスがあなたから90度ずれています。この位置の人が、あなたに完全に意識を向けるための唯一の方法は、頭をあなたの方向に向け、一緒に視線も集中させることです。しかし、その場合ラインフォーカスと相手の意識の多くがあなた以外に向いているので、相手のエモーショナルセンターと接点を持つことができません。この位置でも会話をすることは可能ですが、きちんとした情報伝達を行うためには、当事者同士が、その意識をお互いに向けて、クォーターターンかフルフロントポジションになるよう体を向けることが必要です。
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さて、次は会話を交わしている二者の間にあなたが加わるような状況を考えてみましょう。最初の二人は、あなたを会話に入れたいと思うのであれば、体の向きをクォーターターンにして、三人が円を描くように体を動かすでしょう。もし、この二人が体の向きを変えないままだと、それは彼らがあなたに興味を示していないサインであり、会話にあなたを入れようとする意志がないことを示します。
スリークォーターターンとフルバックポジションは、相手との関係を断ち切る体勢にあり、エモーショナルセンターを相手と繋げる意思がないことの表れなのです。スリークォーターターンでは、ラインフォーカスがほぼ完全にあなた以外に向けられていて、興味がないことを表しています。急いでいる人が話を続けながらもその場を離れようとするとき、アイコンタクトは取りながらも、体は失礼にならないようにと完全に背を向けることなく、肩越しに会話が終わっていくという場面が想像できるでしょう。あるいは、ベテラン教師がホワイトボードに何かを書いている間、生徒に対して体はほぼ後ろを向けながらも、目は生徒の方を向くことで、生徒は教師がまだ注意を向けているんだというメッセージが感じられるような場合もあります。スリークォーターターンの位置を取ることで、エモーショナルセンターを逸らし、非言語コミュニケーションとしての拒否を意味したり、あるいは目の前で起きている出来事に対して興味がないことを示すこともあります。
では、込み入った話をしている人や、議論を交わしている人を想像してください。ここでのスリークォーターターンは、明らかにコミュニケーションへの興味がなく、そこから離れたいことを表しています。それは、言葉以上に強力なメッセージです。フルバックポジションは、ラインフォーカスを完全に否定しているものです。この場合には、意識が完全に他のところへあることを表しています。
ここで、自然とフルバックポジションになりうる状況を考えてみましょう。プレゼンでパワーポイントの画面に向くプレゼンテーターはどうでしょう。聴衆はプレゼンテーターがその意識を聞き手からスクリーンに向けるということを分かっているので、そこで意識の断絶が起こることはありません。面白いことに、プレゼンにおいてはちょっとフルバックポジションをとった後に、フルフロントポジションまたはスリークォーターターンに戻ることによって、聞き手に対して次に何が話されるかという期待感をもたらすことができます。これをポイントアップといいます。つまりそうすることで、コミュニケーションに強弱をつけることができるのです。
何か重要なことを伝えたいとき、このフルバックポジションからフルフロントポジションやクォーターターンに戻ることは、非言語コミュニケーションとしての効果的な手段だといえます。このフルバックポジションを効果的に使いこなすのは難しいかもしれません。きっと、このテクニックをうまく使いこなしている人をみたことはあまりないかもしれません。あるいは、人前で話すときは「聴衆には決して背を向けないように」と聞いたことがあるかもしれません。それはおそらく健全な教えだと言えるでしょう。
さあ、いかがですか。これまでに経験してきたことを言葉で理解することによって、日常のコミュニケーションの中で体の向きの基本的な意味に気づくことができるはずです。あまりハッキリしないことかもしれませんが、周りの人を観察することによって私たちが感情や気分を体を使って表現していることがわかるはずです。また、これからは自身がコミュニケーションするとき、ラインフォーカスのとその向け方について意識することができるでしょう。
始めにお話した私のクライアントは、プレゼンのときはフルフロントの姿勢をとり、相手との関係構築や親近感を伝えたいときは、クォーターターンに体を傾けます。そして、その堂々とした彼の態度が少し聴衆を圧倒しているなと思ったときは、エモーショナルセンターからの影響を和らげるために、ハーフ、プロファイルポジションに体を動かします。
今日お話した体の向きの他にも、コミュニケーションを作り上げる要素がいくつかあります。そのうち2つについては次回のエピソードでご紹介しましょう。
では、おさらいです。
<覚えておくべき5つの基本的な体の向き>
1、 フルフロント:ラインフォーカスが正面に向いている状態
2、 クォーターターン:ラインフォーカスが少し正面からズレている状態
3、 プロファイルポジション:ラインフォーカスが対象から90度逸れている状態
4、 スリークォーターターン・フルバックポジション:ラインフォーカスを拒否している状態
こうした体の位置を、相手の意識や興味がどのようなものか、また、自身の意識や興味がどのように受け止められているかを、その場その場に応じて理解する手段として使うことができます。そして何をどのように伝えたいかをベースに、感情の強さをコントロールしたり、弱いところを補強するために、体の向きを意識的に変えることができるのです。