写し 1.6 フレームとスタンス

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1.6 フレームとスタンス

 

このエピソードでは、フレームとスタンスについて話していきます。ここで言うフレームとは体の主要部分、あるいは全体としての体自体を示し、スタンスとはそうした部分をどう使うかということです。立ったり座ったりするときの体の各部分の状態とそれが体の方向やプレーンとどのように関係しているのかを説明していきます。

 

フレームとスタンスは切っても切れない関係にあります。フレームとは体の構造のことを示し、スタンスとはフレームをどう使うかということです。立ったり、座ったり、前のめりになったり、もたれかかったりするというのは、それぞれ異なった体の動きであり、そのためには異なった体の使い方、つまりスタンスを必要とします。体を動かすとき、私たちは体の各部分をどのように使うのか意識することがあります。子供の頃、親や教師に姿勢を正しなさいと注意されたことがありますか。踊りや、あるスポーツをするときの体勢のとり方を学んだ人もいるでしょうし、楽器を演奏する時に、どのように楽器を持って演奏するかについて特別な訓練をしたことのある人もいるかもしれません。

私たちが何らかの行動をする時に、それに適した特定のスタンスあるいは姿勢をとることは難しいことではありません。しかし、日常生活において体がどのように動いているかを意識することは無いに等しいと言えます。フレームとスタンスに意識を向け、それを一種のスキルとして、目的に合わせて使うことはそんなに難しいことではありません。そのことを理解すれば、コミュニケーションをする上で私たちの意思をより良く伝えるために、体のいろいろな部分をうまく使うことができるはずなのです。

 

私たちの体の使い方には個性が存在します。歩き方ひとつをとってみても、自身の特性にあったように体を動かしますし、椅子に座るときも自分が楽になれる姿勢をとるでしょう。そうした姿勢をとるときは、特に考えることもなく自然に体が楽なようにするでしょう。ところが、手や足、頭、胴体への力の配分が非言語コミュニケーションの一部であると認識すると、どのように体を使い、目的に合った姿勢をとればよいのか理解し、それを実行することができるのです。

この力の配分はフレームのどの部分がベースになっているかに左右されますが、安定を得るためのベースは決して足だけではありません。そしてそのベースは体の動きそのものと、体がバランスをとるに重要や役割を果たすのです。

私たちが体を動かすとき、バランスはベースを中心に動き、ベースと膝、頭、胴体、肘や手の動きが、体全体のバランスをコントロールする働きをします。

簡単な例として、漫画に出てくるようなボディビルダーの絵を頭に描いてみてください。しっかりとした筋肉質の胴体から下をみると、足元にかけて細くなり狭いスタンスがとられています。実際のボディービルダーの姿とは違って、おもしろく描かれています。そのキャラクターが足を揃えて立っているますが、 幅広い上半身に狭いベースを与えることで、倒れないようにとバランスをとっているように見えます。

これが漫画ではなく、重さのある実物のボディービルダーだった場合、バランスを取るためには、まずベースを変える必要があります。具体的にはスタンスを横に広げて、両足を肩のちょうど下あたりに持ってくることで上半身に釣り合うようにベースが調整され、体全体のバランスをとることができます。

これがバランスを取るということです。体をバランスの取れた状態に戻すためには、体のどこかで調整することが必要になります。

私たちの足と膝がつかないで離れているとき、猫背にならずに肩と胴体が横に広がるようにできています。そうすることで、ベースとなる足元の上でバランスを損なうことなく腕を大きく動かすことができます。自然とバランスの取れたフレームはベーシックスタンス(基本の立ち姿勢)を用いることによって可能になります。人によっては、このベーシックスタンスに違和感を感じるかもしれません。あるいは、もうすでにこの姿勢が身についている人もいるでしょう。バランスを取るのに体の各部分を自然に使うことで、余計な力を入れずにできる真っ直ぐな姿勢、それがベーシックスタンスです。

 

あなた自身の自然な立ち方とは少し違うかもしれませんが、自身が楽に感じている姿勢があなた与えるメリット、デメリットは何かを理解するために、まずニュートラルについて説明します。それではまず、ベースの置き方がどのようにバランスに影響するのか、いくつかのエクササイズを行いながら考えていきます。

実際に体で体感できるように、まずはベーシックスタンスをとってください。ここでちょっと確認です。まず、動きやすい服を着ていますか?靴を履いていたら、脱ぎましょう。服や靴は、立ち方や動き方に大きな影響を与えます。そのことについては、後ほど話していきます。

では、足を肩幅に広げて、肩、腰、膝、足が縦に真っ直ぐになるようにして、つま先を正面に向けてください。繰り返しますが、肩、腰、膝を直線上に置き、つま先は正面を向けます。首や肩の力を抜いて、足が腰、膝と真っ直ぐになるようにし注意しながら10歩ほど歩いてみましょう。腕が足と一緒にどのように振れているかを気をつけてみてみてください。腕は肩の付け根から前後にゆれて、大体脚が動く幅と同じくらいに腕も動きます。

では、今度は両足を少し近づけて、スタンスを狭くしてみましょう。歩いてみると、さっきとは違って上半身が窮屈な感じで、腕の動きもぎこちない感じでしたか。足を広げず体が狭いスタンスをとるときは、胴体が釣り合いをとろうとします。とはいっても、狭いスタンスで、上半身が大きな動きをとれないかというとそうでもありません。脚や膝がほぼ合わさったような狭いスタンスをとっているときに、上半身に大きな動きを与えるためには、インナーマッスルや胴体周辺の筋肉を使わなければなりません。足と膝を合わせた狭いスタンスでは普通腕は胴体の側にあり、そうすることでバランスをとろうとするはずです。このような姿勢をとるときは、肩や背中を起点とするのではなく、自然と肘のあたりを使っていることがわかるでしょう。

この姿勢で、つま先を外に向けて歩いてみると、肩が広がりバランスをとろうと、手の平が上を向くように腕が動くことがわかります。もし、つま先を内側に向けて歩いたとしたら、肩は丸くなり、腕は身体の前を交差するようにふれているはずです。このように、裸足で、動きやすい服を身に付けているときに歩いた時の感覚を覚えておいてください。

 

次に、服装や靴の選び方についてお話してきます。服や靴は、私たちの動き、バランス、さらには膝の向きや骨盤の傾き、背筋の伸び方に影響します。ヒールやペンシルスカートを履いているときに、大股で歩くのは難しいですね。細身のスカートはベースの幅を制約して狭くし、フレームもぴっちりとした感じになります。逆にスラックスやフラットフラットシューズを履いている時は、フレームの動かし方に自由が効きます。

男性の場合は、カジュアルな服装、仕事服、どんな服装でも動きはほとんど制限されません。ただし男性の場合は、ジーンズを履いているかスラックスを履いているかで、違った動きを要しますし、サンダルを履いているかドレスシューズを履いているかで、足の動きは多少なりとも変わるでしょう。

多くの場合、どんな服装をしてどんな靴を履くのかで体のフレームと姿勢が変わってきます。何を身に着けていても、それが体の動きやフレームに影響するということを覚えておきましょう。もしかしたら流行のスタイルは深い印象を与えると思うかもしれませんが、気をつけなければならないのは、ぴったりとしたドレスに、細めのジャケット、それにハイヒールを履くとすれば、それに応じたフレームとスタンスを見せないと、周囲にインパクトを与えるために必要なバランスやきちっとした姿勢、身振りを示すことはできません。きちんとした姿勢が保ちにくい服装を選ぶことは、流行や嗜好について情報を伝えられるかもしれませんが、身につけたものによって生じたぎこちなさを補おうとする体の動きが、思いもよらない非言語情報として伝わってしまうこともあります。ぴったりとしたシャツを着て、細身のハイヒールを履き、そのせいで不自然でぎこちない動きや身振りになって、本来伝えたいことではない事がコミュニケーションの相手に受け取られてします。

このエクササイズの始めで、裸足でバランスをとり、その感覚を覚えることをしましたね。ベースの一部である足に靴が加わると、体の重心は靴自体が必要とするバランスに左右されてしまうのです。靴の中でも、より理想的なバランスが取れ、足全体を支えるように設計されたものもあり、そうした靴を履くことで、姿勢や歩き方を変えることもできます。残念ながら、ほとんどのフォーマルシューズはそのようには作られていません。男性用の革靴やビジネスシューズの大半は、ブロックヒールになっていて、バランスがとりにくいということはありません。

ところが、ほとんどの女性用のパンプスは、ヒールが高く、傾斜もあるため身体のバランスをとるのが難しいです。ピンヒールやコーンヒールを履いて、その上ドレスやスカートをはいていると、ベースが狭くなり、ベーシックスタンスを維持するのが難しく感じるでしょう。そして、バランスをとるために体は調節を加えなくてはなりません。素足のときと違って、ピンヒールは地面に接する面積が少なく、足全体に体重が均一にかけられません。

さあ、女性の皆さん、聞き逃さないでくださいよ。チャンキーヒールです!どんなときでもフラットシューズを履けたら良いのですが、フォーマルな場合には適しません。そこで、幅があって、ヒールの高さもそこまで高くない、安定感のあるチャンキーヒールが活躍します!ときには見かけが大事なのは分かりますが、これから話を進めていく上でベースの働きがいかに大切かを分かってもらえればと思います。スタイリッシュで、その上安定した姿勢とることを可能にする一石二鳥の靴、それがチャンキーヒールですよ。勘違いしないでくださいね。私もハイヒールの一足や二足は持っているんです。ただここで言いたいのは、美脚効果があるエレガントな靴はデートやパーティーのためにとっておこうということです。

 

ベーシックスタンスで立っていて、肩と腰、膝がまっすぐ直線上にあるとき、身体にはいくつかのことが起こっています。まず、背骨がまっすぐになるということです。それから、上半身の筋肉が肩をリラックスさせ、胸骨を持ち上げて 頭が上に引っ張られ、顎が引いた状態になります。正しいベーシックスタンスは、無理のない姿勢を可能にして、横隔膜呼吸が楽に行えるようになります。

個人差はありますが、初めのうちは体は今まで通りの慣れている姿勢をとろうと、意志とは反対に働くかもしれません。少し時間がかかるかもしれませんが、よい習慣を身につける価値はあります。

 

 

あなたのスタンスが言葉以上に聴衆に情報を効果的に伝えることがあります。気づかなかったことかもしれませんが、既にコミュニケショーン相手の姿勢から多くのことを感じ取っているはずです。スタンスによって、あなたが堂々として見えるかもしれないし、薄弱で控えめに見えるかもしれません。親しみやすい、おどおどしている、または攻撃的で威圧的といった印象を与えるスタンスもあります。体のフレーム、体の向き、プレーンの組み合わせは無限であり、体を通したコミュニケーションには様々な要因が関わり合っています。

これから先は体のフレーム、向き、プレーンのさまざまな組み合わせに注目し、それがコミュニケーションにどう効果があるのか、探っていきましょう。

さっそく立って、自分のスタンスがどんなものか確認してみましょう。脚を広げたスタンスは、信頼感や安心感をもたらしますが、それと同時にときには攻撃的で威圧的な雰囲気にもなります。ワイドスタンスは、足、膝、腰が真っ直ぐになっている基本スタンスより少しだけ幅が広いです。それに加えて、体の向きをフルフロントにすると、存在感と自信を醸し出します。この立ち方で、一歩下がってプレーンを変えることで、威圧感を与えず自信を示すことができきます。

ワイドスタンスでフルフロントポジションがいつでも使えるわけではありません。印象を和らげ、繊細さを出したいのであれば、フルフロント、クウォーターターン、あるいは横向きの姿勢をとり、さらに広いスタンスと狭いスタンスの間のスタンスにシフトしていきます。

ベーシックスタンスをとり体を真正面に向けると、自信や安心感を醸し出しますが、いつも親しみやすさを印象づけるわけではありません。険しい顔をして、この体勢をとるのでは、引かれてしまうでしょう。しかし、優しく物腰の柔らかい態度でベーシックスタンスをとり、真正面を向くのであれば、大きなインパクトを与えることができるかもしれません。ワイドスタンスで体を相手から少し斜めにずらすと、魅力的で共感できる印象を与え、もしかするとカリスマ的な雰囲気さえ感じるかもしれません。しかし、話していることの重要性を十分に理解してもらうには、体をフルフロントに戻した上で乗り出すようにすると効果的です。

ではここからはナロースタンスについてお話してきます。足と膝の幅を狭くしたスタンスは、ニュートラルで威圧感のない印象を与えることができます。例え、体を真正面に向けた時もです。ただし、後ろのめりになっていると相手へのへつらいや優柔不断さを感じさせる場合もあるでしょう。

このナロースタンスをとった状態で正面から体を斜めに少しずらすと、消極的で非攻撃的な雰囲気が、柔らかく脆弱な感じへと変化します。そして少しプレーンを越えて、前かがみにすると優しく共感できる印象を残します。意識しているか自然に行っているかに関わらず、人柄、体型、表情、コミュニケーションの状況、言葉の選択は様々な異なる反応を呼び起こし、特定のフレームの使い方と相互作用的に働いていることを覚えておきましょう。

 

様々なフレームの動きを理解すれば、スタンスの取り方や特別な座り方を意識的に行い、練習を重ねることで、体のバランスを整え自然な身振りが可能になり、最終的にはもっと効率よくコミュニケーションできるようになります。それはあなたが聞き手であるときにも同じことです。

では座っているときはどうでしょう?私たちの足と骨盤の位置取りが座ったときのベースを決めます。お尻の先の骨、つまり坐骨が椅子の座面に当たるように座ります。その姿勢が体のバランスと動きのベースになります。上司またはビジネス相手が机を挟んで座っていると考えてください。両足がしっかりと地面につき、膝は大きく開き、体は相手に向かって真正面を向いています。この体勢は、脚を組んで椅子にもたれかかり、斜めを向いている場合と全く違ったメッセージを伝えます。座っているときに自信や力を見せたいときは、広げた足と膝をベースにしたワイドスタンスをとり、体の向きは真正面を向けます。

しかしあなたが聞き手でじっくりと情報を処理する時間が必要な場合、体の向きをすこし斜めにずらし、足を閉じナロースタンスをとって、感情をそのままに向けてくる相手に対して、それを真っ芯に受け取らないという態度をとるかもしれません。足を閉じ、膝を揃えナロースタンスをとり、体を斜めに向けて座っているのは恭しい態度と取られるかもしれません。ただし、それは明確な境界線を引くことにもなり自身の意識はそこにあるものの、必ずしもその考えに賛同したわけではないことを示す効果もあります。

この体の向きとスタンスとコミュニケーションの関係は時には非常に複雑になることがあります。確かなことは、どんな単純なしぐさの背景にも常に理由と根拠があるということです。

さて、本エピソードでは新たに多くの情報を紹介してきましたが、フレームの使い方というのはある程度直感で感じることができることです。次のエピソードを聞く前に、今日ここで説明した様々なスタンスの取り方やフレームの使い方をいろいろやってみて下さい。そのことによって、これまで学んできた技術的なことと自分の感覚を結びつけることが出来るようになるでしょう。残りの初級シリーズでは、フレームとスタンスの使い方を元に話を進めていきます。コミュニケーションをサポートする機能が他にもあるとお話しましたが、体の構造はそうした機能をサポートすることができます。重心のとり方、身体のバランスのとり方は身体全体の動きとしぐさに影響し、相手が見たり感じたりすることにインパクトを与えます。次回のエピソードはレベルとホリゾンタル(水平) についてです。高さや空間、距離関係の違いがコミュニケーションにどのように影響するのか考えていきます。

 

<まとめ>

 

  1. 立っているとき、座っているときにどのような姿勢をとるかはコミュニケーションに影響する
  2. 体は常にベースを中心にバランスをとっていて、どこにベースを置くかでバランスをとるために必要な上半身の動きが決まる
  3. ベーシックスタンス、つまり肩、膝、足がきちんと一直線上にある状態は、自然にバランスがとれ、姿勢を良くし、背中が丸まることなく胸を開くことができ、それによって自然と横隔膜呼吸ができるようになる
  4. ベーシックスタンスをとることで、徐々に自分に合った体の各部分の使い方を身につけていくことができる
  5. 服装が体の動きやバランスに影響する
  6. スタイルや靴の選び方によっては体のフレームの取り方が制限されてしまう
  7. 効果的なコミュニケーションを求められるイベント活動では、その時と場に応じた服装を選ぶことが大切である
  8. 体の向きとプレーンはスタンスとフレームとの相互関係にあり、より複雑な非言語コミュニケーションの一部として機能する
  9. 立ち方やフレームの取り方に正しい、間違っているということはないが、状況に応じてそれを選択することによって、コミュニケーションを円滑に進めることができる
  10. フレームやスタンスは非言語コミュニケーションツールとして大きな役割を果たし、体の動きや、位置の取り方は、体の向け方とプレーンに呼応して、言葉以上にコミュニケーションに大きな影響を与える

 

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写し   9 アーティキュレーションと共鳴   軟口蓋を使った声の出し方、声帯と共鳴腔がどう音を生み出し反響させるかを理解することはここでお話するアーティキュレーションの基礎となります。アーティキュレーションとは言葉を明瞭に音声化すること、つまり滑舌や歯切れのことを指します。 唇と歯、舌は 声帯から出てきた音の音波を変えるときに働く器官です。これらを調音器官と呼びます。唇、歯、舌の異なった使い方を組み合わせることで、様々な母音と子音を生み出すことができます。どんな動作でも、シンプルで調節の効く動きというのは体得しやすいといえるでしょう。 舌は、言語の発声にあたって驚くほどの働きをする器官です。特に発音が難しい言葉や、長い間話さなくてはならない場合に、8本の絡み合った筋肉が動くことで、舌が素早く動き、言葉にすることができます。舌がもつれたり、子音をはっきりと発音できない、意味のない言葉が出てくるほとんどの場合は調音器官、特に舌がよく動いていないことに原因があります。 しかし、普段話すときに舌、唇、歯が実際にどのように働いているかはまず考えないでしょう。そこで、今日は調音器官の働きについて詳しくお話していきます。     調音器官に意識を向ける一番の方法は、早口言葉を練習することです。ここでは医学的側面から調音器官を解明していく代わりに、実際の動きを観察し、感覚をつかむことでそうした器官を使っていく方法を考えていきます。早口言葉を試してみることで、調音器官を使いこなせているか否かがすぐにわかります。 相手の話に興味をもって耳を傾けているのに、話し手がもごもご話すときは、誰でもイライラしてくるでしょう。早口言葉は簡単で、効果的な発声練習です。特に英語を第二言語として学んでいる学生が、英語独特の発音方法を学ぶのにはかなりの効果があります。この練習は正確さと滑舌の良さを高める方法だと考えて下さい。 まず、母音と子音を出すときにそれぞれの器官がどのように動いているかに注意を払いながら、次の早口言葉を練習していきます。   RED LEATHER, YELLOW LEATHER, YELLOW LEATHER, RED LEATHER では始めのRED LEATHERの部分だけやってみます。 一緒に。いいですか。では、…

WTF Japanese Transcript 1

写し     1.1  呼吸の大切さ      第1話では、呼吸の大切さと、呼吸が私たちがコミュニケーションをする上でどのように関わっているかをお話します。私たちが “コミュニケーション”について考えるとき、呼吸のことなどは考えないかもしれませんが、このエピソードを聞いていくうちに、実はコミュニケーションにとって重要な基礎的要素であることがわかってきます。それでは私たちの呼吸がどのように、声、心、体に関わっているか、またどのように呼吸パターンがどのような形で一連の意思疎通のやり方やコツの基礎になっているか探っていくことにしましょう。  コミュニケーションやプレゼンにおいて効果的に意思疎通を行うには、適切な呼吸をすることが不可欠です。それはどういうことなのか早速お教えます。呼吸法は多くの活動や修練に活用されています。呼吸の速さ、深さ、頻度や、肺のどの部分に空気を送り込むのかといったことが、自身の声、心、体をいかに上手く操って成果を出せるかに関わってきます。スキューバダイビングをするときとマラソンをするときでは、呼吸の仕方が違うはずです。スポーツをする時は、胸を広げて呼吸し、瞑想をする時には、お腹を広げて呼吸をするでしょう。緊張しているときは早く、浅い呼吸をし、落ち着いているときはゆっくりと安定した呼吸をするはずです。呼吸の仕方に正しい方法、間違った方法はありません。ただ、呼吸方法を変える理由とその方法を理解すれば、自身をコントロールする道具として呼吸を使うことができるようになるのです。    効果的なコミュニケーションを達成するためには、意識的に行う横隔膜呼吸がカギとなります。肺のすぐ下に胸腔と腹腔を分けるドーム状の筋肉があります。これが横隔膜です。この横隔膜が収縮、つまり緊張している状態では、筋肉が下に下がり平らになり、肺が拡張し空気でいっぱいになります。これが息を吸うときの状態です。筋肉が弛緩すると、横隔膜はもとのドーム状にもどり、肺を圧迫し、空気が押し出されます。これが息を吐くときの状態です。  肋骨の少し下あたりに手を置いてみてください。そしてちょうどヘソの上あたりを触ってみると、呼吸に携わるこの横隔膜を感じることができます。 ちょっと咳をしてみましょう。つぎは笑って。横隔膜が上下に大きく動いたことがわかったでしょうか。私たちはこの筋肉を1日2万回以上使用しています。始めは、意識して筋肉を動かそうとすると、その動きとは自分の感覚とは逆と感じられるでしょう。息を吸う時、横隔膜がリラックスしているように思えるかもしれませんが、実のところ、このとき筋肉は緊張した状態になっています。逆に息を吐く時は、横隔膜はリラックスした状態になりますが、もしかしたら、筋肉を使って空気を押し出しているように感じるかもしれません。ここでは、多くのメカニックが働いていて、どの筋肉がいつ、どのように動くかは、非常に巧妙にできています。    それでは、これから横隔膜呼吸について、それがどのような感じのものなのか、実際に行う時のコツを無理なく覚える方法を解説していきます。これから説明するエクササイズを行うことによって、横隔膜を使って大きく深い呼吸を意識的に行うことが簡単にできるようになります。腹式呼吸、丹田式呼吸と言えば、みなさんもう聞いたことがあると思いますが、ここでは横隔膜呼吸と呼ぶことにしましょう。  まず、片手をヘソのちょうど上あたりに置いて、もう片方の手を胸に置いてください。腹部に置いた手の下あたりの下腹部をリラックスさせましょう。「ちょっと食べすぎたな」というときに、お腹を膨らませるような感じで。力を抜いてリラックスしましょう。それが最初のステップです。次に、口から息を吸い込み、肺の奥深くまで空気を送り込みます。このときお腹に置いている手が動いているでしょうか。逆に胸に置いた手はほぼ動かないはずです。それがステップ2です。そして、口から「フーッ」と、英語の「F」を発音するつもりで、ゆっくりと一定のペースで息を吐きます。  このように(フーッ)。  この「F」の音を出すような息をするのには、いくつかの理由があります。もちろん、人前で実際に出すわけではありません。そうではなく、話を始める前に横隔膜呼吸に入るための動作として、体に覚え込ませるために使います。「フーッ」と息を吐き出すとき、一定した「F」の音が聞こえるか否かで、空気の流れが一定してるかどうかを感じることができます。  このように(フーッ)。 それでは、一緒にやってみましょう。  まず、お腹をリラックスさせて、それから口から息を吸って、肺の奥の方まで空気を送り込みます。そして、フーッっと息を吐きます。これを繰り返し練習することで、呼吸を最大限に利用し、多くの酸素を取り込むことが可能になり、豊かな声を生み出すことができ、明瞭なコミュニケーションの基盤を築くことができるでしょう。  早く、浅い、緊張した呼吸では、短絡的で散漫な思考しか生み出すことができません。何か言いたいことがあるとき、特に大勢の聴衆を前にするときには、横隔膜呼吸を行うことで、落ち着いて堂々と人前に立つことができます。呼吸が浅かったり、胸で呼吸しながら話すときは、緊張して震えたり、声が小さくなったりします。 こうした緊張状態は、しっかりとした横隔膜呼吸をすることで解消することができます。深く息を吸い込み、肺の奥底まで空気を送り込みます。しっかりと息を吐けば、喉頭と声帯を動かす筋肉が働いて、よりはっきりとした通る声を出すことができます。そして、この呼吸が、体全体に酸素を行き渡らせ、脳の冴えを良くし、筋肉機能の活性化に繋がるのです。    私たちは、色々な場面で、横隔膜呼吸を自然に使っていることが多くあります。自分が精通していること、例えば日常生活で昨日のランチは何を食べたか、今日あった出来事を誰かに話すとき、見解や助言を求められたとき、体は自然と横隔膜呼吸を行い、言葉がすらすらと出てくるはずです。  また、激情に駆られた時や切迫した状況に置かれた時には、横隔膜呼気をしていることに気付くでしょう。道路を横切ぎる子供を見て叫ぶような状況、事実無根のことで受けた非難に対して反論するとき、その直前には肺にたくさんの空気を送り込んで、深く大きな呼吸をしているはずです。  面白いことに、話を始める前に思考がまとまっていないとき、私たちは横隔膜呼吸とは違った呼吸をします。ずっと前に読んだ本の、ある部分を思い出すように言われたとき、あるいは、あまり知らない話題について説明するように求められたとき、あるいは言いたいことがまとまる前に話し始めるときは、気持ちに戸惑いがあるので、呼吸は浅くなっているはずです。  しかし、何を言えばわからないという状況に陥ったときも、一瞬で安定した呼吸を取り戻す方法があります。まとまったしっかりした思考を生み出すために一息おいて、それから横隔膜式呼吸で、ゆっくり深く呼吸し、言葉を発します。そうすることで、すぐに戸惑いの状態から脱して、すっきりした気持ちになるでしょう。またきちんとした呼吸から生み出された考えや表現で話せば、その声には、熱意、説得力、重要性や緊迫感が加わります。…

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