写し 8 発声と軟口蓋の使い方
写し
8 発声と軟口蓋の使い方
このエピソードは発声の仕方と口の奥の上側の部分、軟口蓋の使い方についてお話していきます。これまでのエピソードでは、主に体を用いた非言語コミュニケーションに焦点を当ててきました。また、始めるにあたっては呼吸と思考プロセスとの関係について少しお話をしました。それをもとに、言葉によるコミュニケーションにおける発声のメカニズム等、物理的面についてお話していきます。まず私たちが話すときに何が起こっているのかを理解するために、段階を追ってみてみましょう。
発声とは、息、声帯、鼻腔や胸腔といった共鳴腔を使って音を作り、反響させることです。送り出された息が声帯を通って振動して作られた音は、口と鼻を通る時に唇や歯、舌といった発声器官を使って調整されて言葉として形成されます。このエピソードでは、しっかりした発声の仕方の基礎を紹介し、次のエピソードで、その基礎を生かして発音プロセスや、声の高さの制御の仕方、共鳴の仕方が話し声や相手に与える影響に焦点を当てます。2話にわたって発声エクササイズを行いますから、気兼ねなく声を出して練習できる場所でお聞きいただくことをおすすめします。
基本的には、空気が喉頭を通って出ることによって音が出ます。喉頭は喉仏のすぐ後ろにある声帯とその上の2枚のひだを含む喉の器官です。そのひだは喉に水平で、喉頭の前の部分でつながっていて喉頭の後部では開いています。Vを横に倒したような形といえば想像がつくでしょうか。
普通に息を吐くときは、声帯が開き横隔膜が喉頭へ空気を押し出し、そしてその空気は口と鼻を通っていきます。声帯が開いているときは、音は生成されません。声帯にある筋肉と靭帯が、喉頭の隙間を狭めるように収縮するときに音が出ます。ひだが緊張した状態の時に息を吐くと、その時に声帯を囲む粘膜が振動し、音を出すことができます。声帯のひだは、低音を出すときは、ゆっくりのびのびと振動しますが、高音を出すときは、ピンと張られより速く振動します。
第1話で行った横隔膜呼吸の練習は、しっかりした声を出す第一歩です。きちんとした呼吸方法なしにはうまく発声することはできません。十分で安定した空気の流れを確保することは、力強いく自信にあふれた声を出すことを可能にすると同時に、呼吸と思考をうまく繋ぐための基盤をつくることで、コミュニケーションの中で声を効果的に使うことができます。適切な呼吸をすることができれば、空気と共に生成された音を軟口蓋に送り出すことができます。
軟口蓋とは、硬口蓋という口の奥の湾曲した固い部分の後ろにある、やわらかな粘膜に覆われた部分のことです。軟口蓋の後ろには口蓋垂があります。私たちがあくびをするとき、口の後部にあたるこの部分は空気が口から吐き出されるときに強く伸びます。意識したことがないかもしれませんが、発声の仕方にはいくつかあります。普通に話すときは、軟口蓋を通して発声するはずです。
ちょっとここで、異なる発声の仕方の違いを聞いてみましょう。
(鼻腔を使った発声)これは鼻にかかった声です。
(喉を使った発声)これは喉から出る声です。
(軟口蓋を使った発声)ここでは、軟口蓋を意識しています。
軟口蓋を使うことで聞き手にとってより聞きやすく明確な声を出すことできます。また軟口蓋に声を響かせることで、喉頭に負担をかけることなく音量の調節をすることができます。しかし、どうのように軟口蓋を意識することができるでしょうか?それは、コマーシャルの後にお話していきます。
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声帯を鍛えて正しい発声方法を身につけるためには様々なボイストレーニング法があります。
まず、軟口蓋を使って声を出す練習をしていきましょう。唇を閉じて基本的なハミングから始めましょう。
(唇を閉じて)HUM
どこに振動を感じるかに注意を払いながら、私の後に続いてください。いいですか?一緒に。
(唇を閉じて)HUM
もう一度。
(唇を閉じて)HUM
音が鼻腔を通るとき、唇、口、顔の上方向で音の振動を感じることができます。振動は、時に顔の骨、あるいは頭蓋骨まで広がって感じることもあります。では、ハミングにちょっと調整を加えて、前歯あたりを意識してやってみましょう。そして今度は高音を出してみます。このように。
(高音)HUM
いいですか。一緒に。
(高音)HUM
どうでしょう。歯のちょうど後ろあたりから、唇、そして顔面に振動を感じますか。もしそうであれば適切に発声できている証拠です。
次は、その振動を唇と歯から口の後ろに向けてみます。同じように振動をその部分のみに集中させてみて下さい。今度は低音を出してみます。このように。
(低音で)HUM
いいですか。では一緒に。
(低音で)HUM
口の後部に振動を感じましたか?このハミングの振動を口の前から後ろへと動かせるようになったら、次のステップに進みましょう。
では、顎をゆっくり下げて口を開けてください。舌の後ろを持ち上げて軟口蓋を閉じて下さい。
この動きは、GoまたはGoodの “G”の音を出すときにみられます。では、舌を軟口蓋に押し上げた状態を保ちながら声を出してみます。音を出してみても、口の後ろが舌で閉じていますね。始めの練習でハミングしたときように空気が鼻を通るように呼吸し、今度は顎を落として口を開けたままにしておきます。このように聞こえるでしょうか。
(口を開けて)HUM
似ていますね。さあ一緒にやってみましょう。いいですか。一緒に。
(口を開けて)HUM
口を開けながらハミングするのが難しく感じるかもしれませんが、練習を重ねて身につけていきましょう。舌の後ろを持ち上げて、軟口蓋を閉じるように口の上に押し付けるようにします。その際、舌先は前歯の後ろあたりおいておきます。音を出し、口の後方にある舌に振動が感じられるようにハミングをします。口が開いている状態では ちょうど“hung”のように聞こえます。HUMというよりはむしろHUNGという風に聞こえるでしょう。
それでは、口の後方を閉じて、口を開けて、ハミングをしてみましょう。いいですか。一緒に。
Hung Ung Ung Ung Ung.
同じの高さでのHUNGという発音は、口の後でHUNGという音から始まりますが、その後はNGという音になって続きます。いいですか。一緒に。
And, Hung ung ung ung ung.
もう一度やります。一緒に。
And, Hung ung ung ung ung.
いいですね。
ではこの練習を二つのやり方で行っていきます。まずは、今やったのと同じように同じ音の高さで行います。
Hung ung ung ung ung.
2つ目は、口の後ろを閉じたまま音階を上げて、そして次に舌の後方を下げて、さらに音階を落としてAHの音を出します。このように。
Hung ung-AH AH AH Hung ung-AH AH AH
最後の方で舌を下げたときにGAHという音が聞こえましたか。それが実感できれば成功です。
最初のハミングは、舌の後方 が上がっていることによって軟口蓋が完全に閉じていて、2つ目は、ハミングの終わりにかけて舌の付け根を下げました。ではちょっとやってみます。
Hung ung ung ung ung. Hung ung GAH AH AH
一緒にやってみましょう。では、
Hung ung ung ung ung. Hung ung GAH AH AH
もう一度。
Hung ung ung ung ung. Hung ung GAH AH AH
軟口蓋が動くような感覚があればいいのです。喉を開いて、鼻腔をすり抜けて出る声は、明朗で伸びやかになります。もし始めのHung AHのところで前方に振動を感じ、最後の2つのAHAHでつまってしまう場合は、前方へ唇を通して音を出すことを意識して下さい。この練習にバリエーションをつけるのであれば、単にHUNGにAHを付けてHUNG AHのようにしてもいいでしょう。
Hung Ah Hung Ah Hung Ah
声門で発音される”G”の音を”AH”の音と融合させる練習は声を鍛え、軟口蓋のどこで声が作られるかを確認していく練習です。慣れてきたら口の後方を開く前に、始めの”Hang”の発音をだんだん滑らかに伸ばして長くしていくことができます。このように。
Hung ah Hung ah
喉で詰まったような声、あるいは単に話し手が物静かな人だったとしたら、軟口蓋を使って発声した声はやけに大きいと感じるかもしれません。聞き手が受け取る情報に応じた発声の仕方や声の質が、聞き手にどのような影響を与えるかを考えることが重要です。大きなインパクトを与えることを意図したプレゼンテーションや会話をするときには、多くの人が聞こえるような声、通る声をつくることが不可欠です。軟口蓋を意識して出された声は、明朗でよりはっきりした声になります。
以前のエピソードで、興奮してる時や、自信を持って話す時、あるいは緊急を要するときなどは自然と横隔膜呼吸を使っているということを覚えていますか。この軟口蓋を使った発声が自然に行われていることは、誠実に話すとき、またはハッとした時に話すときにみることができます。もちろん、適切な呼吸をしたり、軟口蓋を使う以外にも、声を効果的に使う方法があります。発声の仕方や声の響きは、明瞭な発音、部屋全体へ通る声を作り出すのに重要です。
次回はハミングを使って更に練習を重ねていきます。それまでに今日行った軟口蓋を使う練習を続けて下さい。時に座って、時には立ってやってみましょう。
まとめ
- 音は空気が声帯を通ることによってつくられる。
- 高音は声帯の膜がピンと張ることによって出るのに対して、低音は膜が弛緩した状態でゆっくりと振動することによって出る。
- 音が生成されたあとは、それをどこへ向けるか決めることができる。
- 明快さを必要とする場合には、声を硬口蓋と口蓋垂の間にある軟口蓋へ向けるとよい。
- 軟口蓋を使うことで喉頭を無理なく使ってより明瞭な声を出すことができる。
- コミュニケーションを取る前に、ここで練習したハミングを数分練習することで声のウォーミングアップし、HMMMとHUM GAHのエクササイズを交互に行うことによって軟口蓋の使い方を確認すること。