WTF Japanese Transcript 1

写し

  

 1.1  呼吸の大切さ

 

 

 第1話では、呼吸の大切さと、呼吸が私たちがコミュニケーションをする上でどのように関わっているかをお話します。私たちが “コミュニケーション”について考えるとき、呼吸のことなどは考えないかもしれませんが、このエピソードを聞いていくうちに、実はコミュニケーションにとって重要な基礎的要素であることがわかってきます。それでは私たちの呼吸がどのように、声、心、体に関わっているか、またどのように呼吸パターンがどのような形で一連の意思疎通のやり方やコツの基礎になっているか探っていくことにしましょう。

 コミュニケーションやプレゼンにおいて効果的に意思疎通を行うには、適切な呼吸をすることが不可欠です。それはどういうことなのか早速お教えます。呼吸法は多くの活動や修練に活用されています。呼吸の速さ、深さ、頻度や、肺のどの部分に空気を送り込むのかといったことが、自身の声、心、体をいかに上手く操って成果を出せるかに関わってきます。スキューバダイビングをするときとマラソンをするときでは、呼吸の仕方が違うはずです。スポーツをする時は、胸を広げて呼吸し、瞑想をする時には、お腹を広げて呼吸をするでしょう。緊張しているときは早く、浅い呼吸をし、落ち着いているときはゆっくりと安定した呼吸をするはずです。呼吸の仕方に正しい方法、間違った方法はありません。ただ、呼吸方法を変える理由とその方法を理解すれば、自身をコントロールする道具として呼吸を使うことができるようになるのです。

 

 効果的なコミュニケーションを達成するためには、意識的に行う横隔膜呼吸がカギとなります。肺のすぐ下に胸腔と腹腔を分けるドーム状の筋肉があります。これが横隔膜です。この横隔膜が収縮、つまり緊張している状態では、筋肉が下に下がり平らになり、肺が拡張し空気でいっぱいになります。これが息を吸うときの状態です。筋肉が弛緩すると、横隔膜はもとのドーム状にもどり、肺を圧迫し、空気が押し出されます。これが息を吐くときの状態です。

 肋骨の少し下あたりに手を置いてみてください。そしてちょうどヘソの上あたりを触ってみると、呼吸に携わるこの横隔膜を感じることができます。 ちょっと咳をしてみましょう。つぎは笑って。横隔膜が上下に大きく動いたことがわかったでしょうか。私たちはこの筋肉を1日2万回以上使用しています。始めは、意識して筋肉を動かそうとすると、その動きとは自分の感覚とは逆と感じられるでしょう。息を吸う時、横隔膜がリラックスしているように思えるかもしれませんが、実のところ、このとき筋肉は緊張した状態になっています。逆に息を吐く時は、横隔膜はリラックスした状態になりますが、もしかしたら、筋肉を使って空気を押し出しているように感じるかもしれません。ここでは、多くのメカニックが働いていて、どの筋肉がいつ、どのように動くかは、非常に巧妙にできています。

 

 それでは、これから横隔膜呼吸について、それがどのような感じのものなのか、実際に行う時のコツを無理なく覚える方法を解説していきます。これから説明するエクササイズを行うことによって、横隔膜を使って大きく深い呼吸を意識的に行うことが簡単にできるようになります。腹式呼吸、丹田式呼吸と言えば、みなさんもう聞いたことがあると思いますが、ここでは横隔膜呼吸と呼ぶことにしましょう。

 まず、片手をヘソのちょうど上あたりに置いて、もう片方の手を胸に置いてください。腹部に置いた手の下あたりの下腹部をリラックスさせましょう。「ちょっと食べすぎたな」というときに、お腹を膨らませるような感じで。力を抜いてリラックスしましょう。それが最初のステップです。次に、口から息を吸い込み、肺の奥深くまで空気を送り込みます。このときお腹に置いている手が動いているでしょうか。逆に胸に置いた手はほぼ動かないはずです。それがステップ2です。そして、口から「フーッ」と、英語の「F」を発音するつもりで、ゆっくりと一定のペースで息を吐きます。

 このように(フーッ)。

 この「F」の音を出すような息をするのには、いくつかの理由があります。もちろん、人前で実際に出すわけではありません。そうではなく、話を始める前に横隔膜呼吸に入るための動作として、体に覚え込ませるために使います。「フーッ」と息を吐き出すとき、一定した「F」の音が聞こえるか否かで、空気の流れが一定してるかどうかを感じることができます。

 このように(フーッ)。 それでは、一緒にやってみましょう。

 まず、お腹をリラックスさせて、それから口から息を吸って、肺の奥の方まで空気を送り込みます。そして、フーッっと息を吐きます。これを繰り返し練習することで、呼吸を最大限に利用し、多くの酸素を取り込むことが可能になり、豊かな声を生み出すことができ、明瞭なコミュニケーションの基盤を築くことができるでしょう。

 早く、浅い、緊張した呼吸では、短絡的で散漫な思考しか生み出すことができません。何か言いたいことがあるとき、特に大勢の聴衆を前にするときには、横隔膜呼吸を行うことで、落ち着いて堂々と人前に立つことができます。呼吸が浅かったり、胸で呼吸しながら話すときは、緊張して震えたり、声が小さくなったりします。 こうした緊張状態は、しっかりとした横隔膜呼吸をすることで解消することができます。深く息を吸い込み、肺の奥底まで空気を送り込みます。しっかりと息を吐けば、喉頭と声帯を動かす筋肉が働いて、よりはっきりとした通る声を出すことができます。そして、この呼吸が、体全体に酸素を行き渡らせ、脳の冴えを良くし、筋肉機能の活性化に繋がるのです。

 

 私たちは、色々な場面で、横隔膜呼吸を自然に使っていることが多くあります。自分が精通していること、例えば日常生活で昨日のランチは何を食べたか、今日あった出来事を誰かに話すとき、見解や助言を求められたとき、体は自然と横隔膜呼吸を行い、言葉がすらすらと出てくるはずです。

 また、激情に駆られた時や切迫した状況に置かれた時には、横隔膜呼気をしていることに気付くでしょう。道路を横切ぎる子供を見て叫ぶような状況、事実無根のことで受けた非難に対して反論するとき、その直前には肺にたくさんの空気を送り込んで、深く大きな呼吸をしているはずです。

 面白いことに、話を始める前に思考がまとまっていないとき、私たちは横隔膜呼吸とは違った呼吸をします。ずっと前に読んだ本の、ある部分を思い出すように言われたとき、あるいは、あまり知らない話題について説明するように求められたとき、あるいは言いたいことがまとまる前に話し始めるときは、気持ちに戸惑いがあるので、呼吸は浅くなっているはずです。

 しかし、何を言えばわからないという状況に陥ったときも、一瞬で安定した呼吸を取り戻す方法があります。まとまったしっかりした思考を生み出すために一息おいて、それから横隔膜式呼吸で、ゆっくり深く呼吸し、言葉を発します。そうすることで、すぐに戸惑いの状態から脱して、すっきりした気持ちになるでしょう。またきちんとした呼吸から生み出された考えや表現で話せば、その声には、熱意、説得力、重要性や緊迫感が加わります。

 私たちの呼吸と思考は表裏一体の関係にあって、呼吸の仕方によってポジティブ思考にもネガティブ思考にもすることもできるのです。次回のエピソードでは、「一呼吸につき一思考」のルールを紹介し、呼吸と思考の関係についてじっくりとお話をしていきます。

 

 誰かに伝えたいことを伝えることは決して簡単なことではありません。しかし自分の考えをうまく言い表す基盤として、意識的に横隔膜呼吸を取り込むことで、戦略的なコミュニケーションの土台を築くことができるのです。横隔膜呼吸が声、体、思考プロセスにどう影響しているか感覚がつかめるまで、繰り返し練習してみましょう。普段の会話の中で、どんなときに横隔膜呼吸を活用できるかを観察、もしくは、すでに活用している場面を考えてみてください。

 あなたが見過ごしていた呼吸の価値を見直すことで、今後のエピソードに備えてしっかりした基礎をつくっておくことができるでしょう。

 

  

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写し 2 呼吸と思考の関係

写し   2 呼吸と思考の関係     例えば、今朝のプレゼンのために、徹夜して準備をしたとしましょう。オフィスに行く途中で頭の中で何度も何度も練習しました。会議室へ入り準備は万端。さっと立ち上がり、さあ、これからが本番というとき、すべてが頭から抜けて、頭が真っ白に、、、息を吸おうとしても胸がいっぱいで、今朝洗面台の鏡の前で何度も練習したはずの言葉、どうしても出てこない。そして次第に自分がいかに滑稽で、どんなに恥ずかしい姿をさらしているかに頭がいってしまう。話したいことはわかっているはずなのに、自己否定的な考えにとらわれてしまう。 このような体験談を私は多くのクライアントから何度も聞いています。誰しもが経験したことのある失敗談でしょう。このような状況に陥った人の多くの場合、呼吸パターンと思考プロセスがうまく結びつかなかったことに原因があることを知っていたでしょうか。   前回、横隔膜呼吸を使ったコミュニケーション術についてお話しました。ここではさらに呼吸と思考の関係を考えながら話を進めていきます。呼吸と思考のつながりは、私たちがスピーチをする上で、どう文を区切り、言いたいことを伝えるか、逆に「えー」「あー」といったノイズを乱用することになってしまうのかということに直接関わってきます。 まず、呼吸と思考の相互関係をよりよく理解するために、声を出さずにパソコンや本を読んでいる自分、考えをまとめている自分を想像してみてください。今度は、講演で大勢の聴衆の中にいる自分、あるいは演劇や舞台の観客として耳をすましている自分を想像してみてください。 自分が誰かの話を聞いている場合にする呼吸法と、自分が話し手である場合の呼吸法には大きな違いがあります。私たちが聞き手であるときは、話し手の息づかいを感じています。さて、そのような呼吸が、思考とのつながりを失ってしまうことがあります。それは、考えていることを声に出す、まさに、その時です。これは、話し始めるその瞬間から、話し手は、その呼吸を普段の息づかいから、自分ではない誰かに思考伝達をするという複雑なプロセスを支える、話し手としての呼吸に切り替えなければならないからです。不思議ですね。 私たちが呼吸に気を留めないでいると、特に大勢の前で話すときには、イライラし、不安になり、足が地に着かないという状態を生み出します。聴衆を目の前にして、重要な時に、舌がまわらず、頭がごちゃごちゃしてしまうことを経験したことがあるのはあなた一人ではありません。   ラッキーなことに、呼吸を利用することによって、より力強く意識的で、明確なコミュニケーターになることができます。重要なポイントは、呼吸と思考は表裏一体ということです。 これがどのようなことかは、文中で句読点がどのように機能するかを考えると容易に理解できるはずです。新しい内容が出てくるときは大文字で始まり、文の最後はピリオドで終わります。そして、カンマやピリオドといった句読点や、その他の括弧や記号などは、間をおくところ、内容が異なる、あるいは注目すべき点が変化することを示すカギになります。私たちが文書を読むとき、そうした記号は文章の構成をわかりやすくするのに役立ち、内容の意味やニュアンスの捉え方に影響します。しかし、話し手が声に出して話すとき、聞き手は、こうした記号を使って情報の処理することによって話の内容をつかむというメリットを持っていません。ですから話し手は、文章中の句読点などに代わるテクニックを使って、情報の伝達をしなければならないのです。そして、そのテクニックが呼吸なのです。   実は、聴衆は話し手の息づかいを感じ、同じように呼吸をします。そして、話し手の息づかいは、話されている内容がどう受け止められるかに影響します。呼吸と思考は表裏一体です。 文章を書き始めるときは、大文字から始めるということを思い出してください。話し始めるときには、そのきっかけとして、横隔膜呼吸をします。喉を開き、横隔膜を下げるように空気を大きく取り込みます。この動作は聞き手に対して新しい情報が与えられることを知らせる役割を果たすとともに、自身の脳を活性化し、はっきりした声を出すために体を整えます。 聴衆は、私たちが息継ぎをしたり、新たな深い呼吸を取ったりすることで、話の終わりやもっと詳しい内容がつけ加わること、あるいは話が次の段階へ進むことを察することができるのです。するべきところで呼吸をすることは、明確にわかりやすく言いたいことを伝えるのに効果的な方法だといえます。   第1回のエピソード「呼吸の大切さ」の中で、切迫した状況下で声を出そうとするとき、熱意を持って話すときには、無意識のうちに横隔膜呼吸を用いる傾向があるということを覚えていますか。こうした場面では、呼吸と思考は自然とつながり、その瞬間信じられないほど、頭が冴え、自分の意図することが明確に表すことができるでしょう。しかし、どうしても伝えたいという想いが、常によい結果を生むとは限りません。それは、入念に準備する時間がなかったからかもしれません。あるいは、緊張のしすぎで、本来できるはずの、熱い想いと自信のままに話すことができなくなってしまうからかもしれません。不安定な乱れた呼吸は、よく考えられた、どんなよい内容のコミュニケーションであっても台無しにします。   では、準備不足、あるいは緊張しているこのような状況を乗り越えるにはどうしたらよいでしょうか?「えー」、「あのー」などといった雑音のない、自信に溢れた理解しやすい話し方に即座に戻すにはどうすればよいのでしょう? それは、呼吸をして、神経を集中させるように頭を切り替えることです。まず、コミュニケーションをする上での全体的な目標を持つことを習慣づけるようにします。この目標を設定するとき、コミュニケーションをより豊かにすることを考えましょう。具体的には、「今日はこのことについて教えたい」…

写し 4 ラインフォーカスと体の向き

写し   4 ラインフォーカスと体の向き 私のクライアントでカリスマ的な男性がいます。身長190センチ、体重90キロの大柄な人です。彼は仕事上色々な人と人間関係を構築し、その関係を保たなくてはなりません。大勢の人前で話す時の彼には堂々とした存在感があります。しかも、個人レベルで対応することにも秀でているのです。時には、その堂々とした存在感を、威圧感がない温か存在へと変化させることができます。そして、また聴衆再び部屋全体を一瞬にして掌握するスキルを持っています。 前回のエピソードでは、ラインフォーカスについて基本的な考えを紹介しました。ここではさらにそれを使い、コントロールする方法を考えていきます。     それでは、早速ラインフォーカスと体の向きについて説明していきます。 まず、体の向きを表す図を描いていきます。ここでは演劇学から学べる言葉を引用して、コミュニケーションをとる時の体の向きについて考えていきます。これから描いていく図は、対人、対物、さらには対空間の位置関係も含んでいます。 それでは、まず何もない部屋の床に大きな円を描くところから始めましょう。そして、その円を半分にするように真ん中に線を一本引きます。それから、その線と交差するように円を4等分する線を引きます。最後に、それぞれの線の間に、円の端と端の2点を結ぶ線を引くと、円を八つ切りにする線が描けます。 あなたは円の中心にいます。そこで、あなたの目の前にある点に、あなたに面と向かうように人を置きます。この点、つまりあなたに正面を向いて立っているこの人の位置を「フルフロントポジション」とします。その隣りの点のそれぞれ2点にまた人を置きます。それぞれの人の体は、真正面からは少し左または右斜めになりますね。この位置を、「クォーターターン」といいます。次は、円の真横、つまりコンパスでいうと東西を指している点に人を置きます。中心からみると、横顔しか見えていないはずです。この位置を「ハーフポジション」、または「プロファイルポジション」といいます。続いて、そのまま円をたどっていくと、ハーフポジションを結んだ線に対しクォーターターンと正反対の位置に点があります。ここに人を置くと、その人はあなたからそっぽを向いた状態になります。この位置をスリークォーターターンと呼びます。最後に、フルフロントポジションの真反対にあり、あなたからはそこに立っている人の背中しか見えない位置を「フルバックポジション」と呼びます。   では、これらの位置が、ラインフォーカスについて考えるときどのような意味を持つのか説明していきましょう。フルフロントポジションにある人は、ラインフォーカスを100%あなたに向けている状態です。前回のエピソードで、胴体を囲む四角を描いたのを覚えていますか。この「フルフロントポジション」では、その四角を真正面に見ることができるでしょう。この位置は、最もフォーマルな状況、対立的な場面、または全面的な注意を払うべき場面で用いられるでしょう。 例えば、教室内の教師と生徒が向かい合っている状態、これがフルフロントポジションです。または、雇用主と従業員が机を挟んで話し合っている様子などが考えられます。あるいは、映画館や劇場の座席はスクリーンや舞台に正面を向いていますね。観客のエモーショナルセンターと目の前で起きている出来事の間では直接的な情報交換が行われているのです。 クォーターターンの位置では、ラインフォーカスが真正面から向けられていないので、双方の関係はより緩やかなものになります。この位置では相手からの関心や注目を受けることはできますが、フォーマルではなく、対立的な印象を受けることもありません。このクォーターターンで、エモーショナルセンターが正面から少しズレた状態だと、相手への応対が強制されにくい状態でコミュニケーションを円滑に進めることができます。この位置は、社交の場、またはカジュアルなプレゼンの場、あるいはよく知っている相手同士や、親密な関係の人同士の間によく見られます。あるいは、パーティーやバーで人と接している時、本を観衆に向けて読む時、大きなグループで話すときにそこにいる人たち全員が等しく加わることが出来るようにしている状況でみられるはずです。 円の半分にあたるハーフまたはプロファイルポジションでは、ラインフォーカスがあなたから90度ずれています。この位置の人が、あなたに完全に意識を向けるための唯一の方法は、頭をあなたの方向に向け、一緒に視線も集中させることです。しかし、その場合ラインフォーカスと相手の意識の多くがあなた以外に向いているので、相手のエモーショナルセンターと接点を持つことができません。この位置でも会話をすることは可能ですが、きちんとした情報伝達を行うためには、当事者同士が、その意識をお互いに向けて、クォーターターンかフルフロントポジションになるよう体を向けることが必要です。 (章区切りのため2行挿入)   さて、次は会話を交わしている二者の間にあなたが加わるような状況を考えてみましょう。最初の二人は、あなたを会話に入れたいと思うのであれば、体の向きをクォーターターンにして、三人が円を描くように体を動かすでしょう。もし、この二人が体の向きを変えないままだと、それは彼らがあなたに興味を示していないサインであり、会話にあなたを入れようとする意志がないことを示します。 スリークォーターターンとフルバックポジションは、相手との関係を断ち切る体勢にあり、エモーショナルセンターを相手と繋げる意思がないことの表れなのです。スリークォーターターンでは、ラインフォーカスがほぼ完全にあなた以外に向けられていて、興味がないことを表しています。急いでいる人が話を続けながらもその場を離れようとするとき、アイコンタクトは取りながらも、体は失礼にならないようにと完全に背を向けることなく、肩越しに会話が終わっていくという場面が想像できるでしょう。あるいは、ベテラン教師がホワイトボードに何かを書いている間、生徒に対して体はほぼ後ろを向けながらも、目は生徒の方を向くことで、生徒は教師がまだ注意を向けているんだというメッセージが感じられるような場合もあります。スリークォーターターンの位置を取ることで、エモーショナルセンターを逸らし、非言語コミュニケーションとしての拒否を意味したり、あるいは目の前で起きている出来事に対して興味がないことを示すこともあります。   では、込み入った話をしている人や、議論を交わしている人を想像してください。ここでのスリークォーターターンは、明らかにコミュニケーションへの興味がなく、そこから離れたいことを表しています。それは、言葉以上に強力なメッセージです。フルバックポジションは、ラインフォーカスを完全に否定しているものです。この場合には、意識が完全に他のところへあることを表しています。 ここで、自然とフルバックポジションになりうる状況を考えてみましょう。プレゼンでパワーポイントの画面に向くプレゼンテーターはどうでしょう。聴衆はプレゼンテーターがその意識を聞き手からスクリーンに向けるということを分かっているので、そこで意識の断絶が起こることはありません。面白いことに、プレゼンにおいてはちょっとフルバックポジションをとった後に、フルフロントポジションまたはスリークォーターターンに戻ることによって、聞き手に対して次に何が話されるかという期待感をもたらすことができます。これをポイントアップといいます。つまりそうすることで、コミュニケーションに強弱をつけることができるのです。 何か重要なことを伝えたいとき、このフルバックポジションからフルフロントポジションやクォーターターンに戻ることは、非言語コミュニケーションとしての効果的な手段だといえます。このフルバックポジションを効果的に使いこなすのは難しいかもしれません。きっと、このテクニックをうまく使いこなしている人をみたことはあまりないかもしれません。あるいは、人前で話すときは「聴衆には決して背を向けないように」と聞いたことがあるかもしれません。それはおそらく健全な教えだと言えるでしょう。…

写し 8  発声と軟口蓋の使い方

写し   8  発声と軟口蓋の使い方   このエピソードは発声の仕方と口の奥の上側の部分、軟口蓋の使い方についてお話していきます。これまでのエピソードでは、主に体を用いた非言語コミュニケーションに焦点を当ててきました。また、始めるにあたっては呼吸と思考プロセスとの関係について少しお話をしました。それをもとに、言葉によるコミュニケーションにおける発声のメカニズム等、物理的面についてお話していきます。まず私たちが話すときに何が起こっているのかを理解するために、段階を追ってみてみましょう。   発声とは、息、声帯、鼻腔や胸腔といった共鳴腔を使って音を作り、反響させることです。送り出された息が声帯を通って振動して作られた音は、口と鼻を通る時に唇や歯、舌といった発声器官を使って調整されて言葉として形成されます。このエピソードでは、しっかりした発声の仕方の基礎を紹介し、次のエピソードで、その基礎を生かして発音プロセスや、声の高さの制御の仕方、共鳴の仕方が話し声や相手に与える影響に焦点を当てます。2話にわたって発声エクササイズを行いますから、気兼ねなく声を出して練習できる場所でお聞きいただくことをおすすめします。   基本的には、空気が喉頭を通って出ることによって音が出ます。喉頭は喉仏のすぐ後ろにある声帯とその上の2枚のひだを含む喉の器官です。そのひだは喉に水平で、喉頭の前の部分でつながっていて喉頭の後部では開いています。Vを横に倒したような形といえば想像がつくでしょうか。 普通に息を吐くときは、声帯が開き横隔膜が喉頭へ空気を押し出し、そしてその空気は口と鼻を通っていきます。声帯が開いているときは、音は生成されません。声帯にある筋肉と靭帯が、喉頭の隙間を狭めるように収縮するときに音が出ます。ひだが緊張した状態の時に息を吐くと、その時に声帯を囲む粘膜が振動し、音を出すことができます。声帯のひだは、低音を出すときは、ゆっくりのびのびと振動しますが、高音を出すときは、ピンと張られより速く振動します。 第1話で行った横隔膜呼吸の練習は、しっかりした声を出す第一歩です。きちんとした呼吸方法なしにはうまく発声することはできません。十分で安定した空気の流れを確保することは、力強いく自信にあふれた声を出すことを可能にすると同時に、呼吸と思考をうまく繋ぐための基盤をつくることで、コミュニケーションの中で声を効果的に使うことができます。適切な呼吸をすることができれば、空気と共に生成された音を軟口蓋に送り出すことができます。   軟口蓋とは、硬口蓋という口の奥の湾曲した固い部分の後ろにある、やわらかな粘膜に覆われた部分のことです。軟口蓋の後ろには口蓋垂があります。私たちがあくびをするとき、口の後部にあたるこの部分は空気が口から吐き出されるときに強く伸びます。意識したことがないかもしれませんが、発声の仕方にはいくつかあります。普通に話すときは、軟口蓋を通して発声するはずです。 ちょっとここで、異なる発声の仕方の違いを聞いてみましょう。 (鼻腔を使った発声)これは鼻にかかった声です。 (喉を使った発声)これは喉から出る声です。 (軟口蓋を使った発声)ここでは、軟口蓋を意識しています。 軟口蓋を使うことで聞き手にとってより聞きやすく明確な声を出すことできます。また軟口蓋に声を響かせることで、喉頭に負担をかけることなく音量の調節をすることができます。しかし、どうのように軟口蓋を意識することができるでしょうか?それは、コマーシャルの後にお話していきます。   スポンサー   声帯を鍛えて正しい発声方法を身につけるためには様々なボイストレーニング法があります。 まず、軟口蓋を使って声を出す練習をしていきましょう。唇を閉じて基本的なハミングから始めましょう。 (唇を閉じて)HUM…

写し 10 ジェスチャーとアーティキュレーションと思考 

写し   10 ジェスチャーとアーティキュレーションと思考     まず始めにここまで私たちに付き合って下さった皆さんにお礼を述べたいと思います。すでに次のシーズンに向けて着々と準備を進めているだけでなく、その間にボーナスエピソードもお送りする予定です。 更に嬉しいことに、オリジナルのポッドキャストに新しくスペイン語、日本語講座が加わることになりました。これから半年のうちにどんどん公開していくので、どうぞお見逃しなく! そして、今までポッドキャストをお聞きいただき、情報を活用していただいた方は、是非iTuneポッドキャストにレビューを書き込んで下さい。みなさんの貴重なご意見、ご感想が今後のプログラムの発展に役立ちますので、どうぞよろしくお願いします。一個人の感想なんてと思われるかもしれませんが、本当に一人一人の声が大切なんです。 ポッドキャストを始めて間もないこの番組にとって、レビューはリスナーの基盤を広げるために必要不可欠ですから。では前もってお礼を言っておきます。ありがとうございます。是非レビューを書き込んで下さいね。     これまで様々なことを各エピソードに分けてお話してきましたが、発声とアーティキュレーションについて理解したところで、以前に紹介した、呼吸、ラインフォーカス、体の向き、空間の使い方、フレームとスタンスといった要素を合わせて、ようやく手や体を使って、どのようにより効果的なコミュニケーションを取ることができるか考えることができます。 もともとこのエピソードをもってシーズン1を終了する予定でしたが、ちょっと変更がありました。残り1話ですべての情報をお伝えすることはとても無理なので、2回に分けてお伝えすることにします。よって、第10話 「ジェスチャー」は、次回をもって完結することをご了承ください。   では、早速、これまでに学んだことと合わせて手がどのように働くかについてお話していきましょう。「手で何をしたらいいのか」の問いに答えるために、まず、手を孤立したコミュニケーションツールとして考えることをやめましょう。 みなさんは、これまでに、ぜひ実用したい手を使ったジェスチャーや、避けたい仕草についての議論や提案を見聞きしたことがあるでしょう。異文化コミュニケーションを経験するときに活用できる、異なる文化圏におけるジェスチャーの使い方や意味の違い、礼儀作法についても読んだり、聞いたことがあるかもしれません。そうした情報は重要ではありますが、それらは単なる習慣、慣例としての身振りや表現に過ぎません。 そのようなジェスチャーは、その動作に何らかの強い関わりがある、あるいはそれにこだわりを持っている人が使うのでなければ意味を持ちません。戦略的コミュニケーターとして注目したいのは、ジェスチャーをコミュニケーションとうまく結びつけ、ジェスチャーの持つ目的をしっかり把握することです。 コミュニケーションの中での手の動作は、体で起こっていることの延長線であり、より複雑なシステムの単なる一部に過ぎません。手を使って伝えたい内容を明確に表現できるようになるためには、コミュニケーションを構成するあらゆる要素それぞれをしっかり関連付けて使う必要があります。 ここでは、手と気持ち、呼吸、そして体がお互いにどう働きあっているのか考えなければならないのです。第1話から第9話まで基本的な考えをまとめてお伝えしてきました。それぞれの要素がジェスチャーとどう関係してくるのか明らかにするために、今一度思い出しながらお話していきます。     ジェスチャーには2つの種類があります。それは、自然に身についたものと意図的なものです。 自然な動きやジェスチャーは、声を出してコミュニケーションをする時に自然と生まれる、あるいは必然的に体が動くときに見られるものです。こうしたジェスチャーはとっさにおきるもので、日常的なコミュニケーションの中で無意識に取り入れているでしょう。自然なジェスチャーは、無意識のうちに使っているにも関わらず、 メッセージを効果的に伝える助けとなります。…

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写し    1.5 プレーン    コミュニケーションにおいて、相手との距離感は色々な意味を持ちますが、それは二つの方法で変えることが出来ます。一つは上体を前かがみにする、あるいは後ろに反らすことです。後で詳しく説明しますが。これを「プレーンを越える」と言います。もう一つは自分のいる場所を前後に移すことです。これを「プレーンを変える」と言います。    では「プレーン」という言葉がどのような意味を持つのか定義づけを行いましょう。そのために、まず10人の人々が直線上に横向きに肩を並べた状態で、一列に立っている場面を想像してください。  次に、全員が回れ右をして縦方向に並んでいる場面を考えてみて下さい。肩を並べて並んだ最初の例では、それぞれが個別の空間に位置していますが、全ての人が同じプレーンに立っています。全員が縦向きで並んだ二番目の例では、人々はそれぞれ別々のプレーンに立っています。  横向きに一列に並んだグループの1人を一歩手前に動かして、残りの9人はそのままの場所に並ばせてみましょう。これを「プレーンを変える」といいます。つまり直線上から手前または奥へと移動する前後の動きです。  そして今度は、残りの9人の両端に立っている人を一歩後ろへ下げます。そうすると、始めは一列に並んでいた10人が三つの異なったプレーンに位置することになります。この三つの異なったプレーンは、あなたとの関係の近さの違いになります。    次に、あなたとの関係に影響するもう一つのタイプのプレーンを紹介しましょう。今度は自身を取り巻く個人空間を考えてください。立っている状態または座っている状態で背中を真っ直ぐにし、頭、肩、腰が一直線になるように姿勢を整えます。頭の先から胴体を通り、足元までつながる直線を思い描いて下さい。足を踏み出したり、座っている場合は動くことなく、上半身を前に傾けて下さい。そうすることで頭と胴体が体を通る線の片側に傾きます。これを「プレーンを越える」といいます。  体全体を動かすのではなく、上半身のみ前に傾けたり、後ろに反らせることでプレーンを行き来することができます。半歩踏み出したり、後ろへ下がったり、あるいはあごを上げたり下げたりするだけの単純な仕草でもプレーンを越えることができます。体がプレーンを行き来する度に、なんらかの情報や意味を伝えているのです。  机から立ち上がって窓に向かって歩いていく時、それはプレーンを変えていることになるのです。あるいは、政治家が演説台で拳をふって体を前のめりにしたり、また体をまっすぐに立てて自分自身の個人空間に戻るようなときも「プレーンを越えて」いるのです。     プレーンを前に移すと、私たちの態度や感情についてある情報を伝えることができます。スピーチや会話の内容によっては、話し相手やオーディエンスに近づくことは、自身の伝えたいことに熱意あるいは攻勢的な意味合いを持たせることができるのです。プレーンを前に移すことで、話し手と聞き手の間の物理的な距離を無くすことができるということを覚えておいてください。その距離を縮めたい場面はしばしばあることで、それは様々な方法で可能になります。  相手とよりよい関係を築き親密になるためには、共有できる空間を作ることが有効なので、そのために相手との距離を縮めようとします。しかし、誰もが経験したことのあるように、状況や関係によっては相手がプレーンを変えることで、脅迫感を感じたり、個人空間が侵されたように思うこともあるでしょう。このように不快感を感じる状況で、あなたはどのように反応するでしょう。不快に感じるその状況から抜け出すために、自然と体は後ろのめりになり、一歩引いたり、あるいはその場から離れるなどするはずです。    ここで以前にお話したラインフォーカス、つまり自分の意識や感情が外に向かう時の方向について思い出してください。私たちは、自身の第六感や本能的反応の源であるエモーショナルセンターを望まない刺激から守るために、ラインフォーカスを逸すということを覚えているでしょうか。  反射的にプレーンを変化させる場合についても同様に考えてみましょう。興味深い話を聞いたり、スポーツやライブのようなイベントに行って夢中になっている場合のことを考えてください。あなたの体はどんな反応をみせますか?講義を聞いているのであれば机から体を乗り出しているでしょうし、スポーツ観戦で延長戦に入ったときやホラー映画を観ている場合には椅子の手前に腰掛けるでしょう。体を前のめりにして会話を聞いたりすることもあります。あえてそうしなくても、話は十分に聞こえているのにです。こうした反応は自身が興味を示していることの表れです。   (スポンサー)    近所の飲み屋やレストランを覗いてみると、プレーンを使った複雑なコミュニケーションの一環を垣間見ることができます。プレーンとラインフォーカスの向けられ方を観察することによって、誰が誰に関心を抱いているのか、あるいは関心が全くないのか容易に判断できます。…

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