WTF Japanese Transcript 5

写し

  

1.5 プレーン

 

 コミュニケーションにおいて、相手との距離感は色々な意味を持ちますが、それは二つの方法で変えることが出来ます。一つは上体を前かがみにする、あるいは後ろに反らすことです。後で詳しく説明しますが。これを「プレーンを越える」と言います。もう一つは自分のいる場所を前後に移すことです。これを「プレーンを変える」と言います。

 

 では「プレーン」という言葉がどのような意味を持つのか定義づけを行いましょう。そのために、まず10人の人々が直線上に横向きに肩を並べた状態で、一列に立っている場面を想像してください。

 次に、全員が回れ右をして縦方向に並んでいる場面を考えてみて下さい。肩を並べて並んだ最初の例では、それぞれが個別の空間に位置していますが、全ての人が同じプレーンに立っています。全員が縦向きで並んだ二番目の例では、人々はそれぞれ別々のプレーンに立っています。

 横向きに一列に並んだグループの1人を一歩手前に動かして、残りの9人はそのままの場所に並ばせてみましょう。これを「プレーンを変える」といいます。つまり直線上から手前または奥へと移動する前後の動きです。

 そして今度は、残りの9人の両端に立っている人を一歩後ろへ下げます。そうすると、始めは一列に並んでいた10人が三つの異なったプレーンに位置することになります。この三つの異なったプレーンは、あなたとの関係の近さの違いになります。

 

 次に、あなたとの関係に影響するもう一つのタイプのプレーンを紹介しましょう。今度は自身を取り巻く個人空間を考えてください。立っている状態または座っている状態で背中を真っ直ぐにし、頭、肩、腰が一直線になるように姿勢を整えます。頭の先から胴体を通り、足元までつながる直線を思い描いて下さい。足を踏み出したり、座っている場合は動くことなく、上半身を前に傾けて下さい。そうすることで頭と胴体が体を通る線の片側に傾きます。これを「プレーンを越える」といいます。

 体全体を動かすのではなく、上半身のみ前に傾けたり、後ろに反らせることでプレーンを行き来することができます。半歩踏み出したり、後ろへ下がったり、あるいはあごを上げたり下げたりするだけの単純な仕草でもプレーンを越えることができます。体がプレーンを行き来する度に、なんらかの情報や意味を伝えているのです。

 机から立ち上がって窓に向かって歩いていく時、それはプレーンを変えていることになるのです。あるいは、政治家が演説台で拳をふって体を前のめりにしたり、また体をまっすぐに立てて自分自身の個人空間に戻るようなときも「プレーンを越えて」いるのです。 

 

 プレーンを前に移すと、私たちの態度や感情についてある情報を伝えることができます。スピーチや会話の内容によっては、話し相手やオーディエンスに近づくことは、自身の伝えたいことに熱意あるいは攻勢的な意味合いを持たせることができるのです。プレーンを前に移すことで、話し手と聞き手の間の物理的な距離を無くすことができるということを覚えておいてください。その距離を縮めたい場面はしばしばあることで、それは様々な方法で可能になります。

 相手とよりよい関係を築き親密になるためには、共有できる空間を作ることが有効なので、そのために相手との距離を縮めようとします。しかし、誰もが経験したことのあるように、状況や関係によっては相手がプレーンを変えることで、脅迫感を感じたり、個人空間が侵されたように思うこともあるでしょう。このように不快感を感じる状況で、あなたはどのように反応するでしょう。不快に感じるその状況から抜け出すために、自然と体は後ろのめりになり、一歩引いたり、あるいはその場から離れるなどするはずです。

 

 ここで以前にお話したラインフォーカス、つまり自分の意識や感情が外に向かう時の方向について思い出してください。私たちは、自身の第六感や本能的反応の源であるエモーショナルセンターを望まない刺激から守るために、ラインフォーカスを逸すということを覚えているでしょうか。

 反射的にプレーンを変化させる場合についても同様に考えてみましょう。興味深い話を聞いたり、スポーツやライブのようなイベントに行って夢中になっている場合のことを考えてください。あなたの体はどんな反応をみせますか?講義を聞いているのであれば机から体を乗り出しているでしょうし、スポーツ観戦で延長戦に入ったときやホラー映画を観ている場合には椅子の手前に腰掛けるでしょう。体を前のめりにして会話を聞いたりすることもあります。あえてそうしなくても、話は十分に聞こえているのにです。こうした反応は自身が興味を示していることの表れです。

 

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 近所の飲み屋やレストランを覗いてみると、プレーンを使った複雑なコミュニケーションの一環を垣間見ることができます。プレーンとラインフォーカスの向けられ方を観察することによって、誰が誰に関心を抱いているのか、あるいは関心が全くないのか容易に判断できます。

 自分たちの輪に誰か入ってきたら、輪の中にいる人は皆体を回し注意を向けますか?あるいは肩越しや横向きのままで、ちょっと話を始めますか?隅に座っているカップルは、お互いに前のめりになっていますか。あるいはまだ二人の間には距離がありますか。ブース席にいるカップルは、横に並んでいますか、それとも向かい合って座っていますか。

 バーでは知らない者同士の間で話が盛り上がっているかいないかは、非言語コミュニケーションの使い方を見てすぐに判断することができるでしょう。誰かが興味を持って会話をしている、またはいつここから抜け出そうかと考えているかはプレーンの状態を見ればわかります。 

 

 しかし、こうしたちょっとした仕草による意思表示は複雑になることもあります。もし正面以外に体を向けているときにプレーンを変えたら、どんな意味があるでしょう。一歩後すざりすると同時に体を背けたり、逆に前に一歩踏み出して体を相手の方向に向けたり、大体の場合プレーンを変えるのは、ラインフォースが向いている対象に強い感情を持っていることを示して いるのです。しかし、プレーンを上手く使いこなすには、微妙な違いを伝えるためにプレーンとラインフォーカスの二つを意識的に使い分ける必要があります。早速どのような場面があるか考えてみましょう。

 例えば、あなたは相手に対して興味や関心を示したいとしましょう。信頼感を持たせかつ堅苦しくないように相手に伝えるためには、ラインフォーカスとプレーンを上手く使うことで、相手に砕けた親近感を与えると同時に、強い興味を示すことができます。この様な時は、ラインフォーカスをクォーターターンにして相手に対して感情をむき出しにしないのと同時に、プレーンを越えて前かがみになることで強い関心があることを示すことができます。

 次のような場合はどうでしょうか? 困難な会話や議論が交わされると予想されるときに、あなたは自分の見解をきちっと考えて述べたい、しかも意見に違いがあっても自分の信念は揺るがないことを周りの人に伝えたいと、話を聞きながら思っている時です。

 例えば、会議や取締役会で対立する提案が出されたとしましょう。体を少し後ろに倒したり、半歩後ろへ下がったりすることは、あなたがそのアイディアに反対し、不愉快に感じていることを示していますが、その間にもラインフォーカスを正面に向けたままでいることで、存在感を示すと同時に、関心があることや興味を強く持っていることを表すことができます。

 このような状況で、後ろにちょっとだけ体を引き、半歩後ろへ下がり、ラインフォーカスも逸らすとなると全く別のメッセージを伝えることになります。おそらくあなたは友人や同僚の求めに対応できることを伝えたかったのに、自由に発言するチャンスがなく、急いでいてその時間がないのでしょう。

 話の腰を折られた時は、ラインフォーカスをフルフロントのままにしてプレーンを下げる、つまり体を後ろへ傾けることによって、話を続けたいという意思を示すことができます。そして目線を話し相手に向けることで、ちょっとした間を作ります。しかし、直ぐに意識を向け直さなければなりません。ラインフォーカスとプレーンの組み合わせとして、プレーンを使って関心を向けないことで承認を示す一方、話し手からラインフォーカスを逸らすことで、コメントする意志のないことを表すことができます。こうした戦略は状況によって使い分けることができます。

 

 次回は、スタンスとスタンスが体の向きとプレーンとどのように関係しているかについて探っていくことにしましょう。今日はこれでおしまいです。いつもお聞きいただきありがとうございます。

 

 <今日のまとめ>

 

  1. プレーンとは、体の前後の空間のことである
  2. 前進するかまたは後退をしてプレーンを変えることは、コミュニケーションの中での感情や思考過程と直結している。敵対意識や嫌悪感、注意を払っている、注意の欠如、あるいは親密な関係構築を求めているのか、個人空間を侵害されたくない気持ちの現れなどの例があげられる
  3. プレーンを越えること、つまり体を前後に傾けることでも同じ様な情報を伝えることができる
  4. 個人空間の中で上半身を動かすことだけに留めることによって、どちらかというと間接的に関心の有無や承認するかしないかを示すことができる
  5. プレーンを越えるにしても全身を使った大きな動き、限られた上半身のみの動き、そして頭だけを使ったちょっとした仕草など様々な方法がある
  6. プレーンを変えたり、越えたりすることは、いわば反射反応である
  7. それぞれの状況においてプレーンがどんな意味を持つかを意識することで、自分の伝えたいことを明確に伝え、相手が伝えようとする情報を正確に解釈することができる
  8. プレーンだけを使って情報を伝達することもできるが、プレーンは他のコミュニケーションの要素と連結していて、特にラインフォーカスとは密接な関係にある

  

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写し    1.7 レベルとホリゾンタル    さて、これまでにコミュニケーションにおける効果的な身体の使い方、相手との位置関係、姿勢などについてお話してきました。 ここでは、高さや空間、距離といったものがどのようにコミュニケーションに関わってくるかについて説明していきます。  一つには制御された環境でお互いに面と向かって立ちながらコミュニケーションをとるような場面があります。しかし実際にそのような状況がどの頻度であるでしょうか。  日常生活の中では、おそらくテーブルに座って会話をしたり、あるいは休憩室や食堂で並んでいる間に立ちながら話したりすることがよくあるでしょう。時には部屋の反対側から相手に話かけるときもあるかもしれません。自分よりも背が高い人、背が低い人、自分よりも身体が大きい人や小さい人と、その中でも社交的な人または内気な人、様々な人と対面することがあります。時には、舞台上から観衆を見下ろしたり、同僚や従業員を前に話さなくてはいけないこともあります。  このような様々な状況は、これまでのエピソードでお話ししてきた体の使い方、相手との位置関係、体の向きや、姿勢がコミュニケーションにどのように働くかに影響します。      レベルとは、他の人や物に対して身体が垂直方向に占める空間と考えてください。例えば、立っている人は、椅子に座っている人や横になっている人とは異なったレベルを占めています。ただし、これは立っているか座っているかだけのことではありません。ステージ上に立っている人は、観衆の中に立っている人とは別のレベルにあり、身長190cmの人と165cmの人では異なるレベルを占めています。背の高い男性が座っていれば、背がそれほど高くない私は、彼と同じレベルにあるということもあります。  ホリゾンタルは、体が人や物に対して水平方向に占める空間のことです。プレーンというのは身体の前後の空間のことをいいます。ホリゾンタルは左右に移動する横方向への動き、つまりプレーン上でどの横位置を取るかということです。  レストラン内のブース席に座っている二人を想像してみてください。テーブルを挟んで向き合った二人を背後から見た場合、二人はお互い真正面を向いて、体がフルフロントポジションの状態で、同じホリゾンタル上に位置していますが、それぞれ異なったプレーンを有しています。横に並んで座った場合は、同じプレーンをとっていますが、それぞれ異なったホリゾンタルに位置していることになります。  座標グラフで考えてみると、横に伸びているX軸はホリゾンタルで、上下に伸びるY軸がレベル、前後に伸びるZ軸がプレーンということになります。グラフ上で考えるのはちょっと難しいかもしれませんね。ここでは単純に上下、前後、左右と表現することにしましょう。      では、まずレベルについてお話します。レベルの基本は、縦方向に注意を向けるということです。 大抵の場合、頭の位置を確認することによって相手が占めているレベルを決定づけることができます。逆立ちしている場合を除いては、頭は人が身体が占める空間の一番高いところにあります  立ったり、座ったり、ひざまずいたり、横たわったりすることで、とっさにレベルを変えることができます。時には、建物の構造、あるいは地形によってレベルが決まることもあります。建物の多くは、人為的に作り出したレベルによってある特殊な効果を生み出すように設計されています。劇場、公共ステージ、表彰台、教会、シナゴーグ、モスク、法廷などの建物は人々の注意を引き、注目を集めるためにレベルとホリゾンタルの機能を考えて設計され、一体感や分断の度合いを通して、特定の情報を伝達することができます。  ちょっと法廷の様子を想像してみてください。裁判官席は法廷のどの場所よりも高い位置にあります。裁判中、検察官や弁護士は立ったり座ったりしてレベルを絶え間なく変えるところ、裁判官はずっと座ったままです。証人台は、被告人席より高いところにありますが、それでも裁判官席からは1段2段下がったところにあります。この特異な位置関係では、法廷の設計の仕方によって、ある権限を裁判官に与え、その空間に存在するすべての人物と一線を画しているのです。裁判官は、法廷の中で特別なレベルを占めているのです。誰もそのレベルを共有することはできず、それによって象徴的な分離が生じます。裁判官の視線は、弁護士、検察官、被告、証人などに下がり、彼らの視線は裁判官に向かって上向きになることになります。  さて、続いては劇場でのコンサートに行ったとしましょう。パフォーマンスは、高く作られたステージで行われます。そのため、演奏者と観客が分離された状態になります。アーティストが舞台から降りて観客の間を練り歩くような公演行ったことがあるとすれば、アーティストが観客とレベルを合わせるようにしたときの雰囲気は全く違ったものになる事がわかると思います。  レベルを戦略的に利用するための鍵は、いつレベルの格差を創るかまたは無くすかということです。共感できる経験をつくりだしたい時は、自然と相手と同じレベルに自身を位置づけるのが普通です。  子供と遊ぶときに子供のレベルまで腰を下げたり、全員がそろって椅子に腰をかけてから食事を始めたり、チームメートが負傷したときは、そのプレーヤーの回復を膝をついて待ったりするということがあります。アナウンサーが聴衆に「皆さん、立って下さい」と言うとき、…

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写し     1.1  呼吸の大切さ      第1話では、呼吸の大切さと、呼吸が私たちがコミュニケーションをする上でどのように関わっているかをお話します。私たちが “コミュニケーション”について考えるとき、呼吸のことなどは考えないかもしれませんが、このエピソードを聞いていくうちに、実はコミュニケーションにとって重要な基礎的要素であることがわかってきます。それでは私たちの呼吸がどのように、声、心、体に関わっているか、またどのように呼吸パターンがどのような形で一連の意思疎通のやり方やコツの基礎になっているか探っていくことにしましょう。  コミュニケーションやプレゼンにおいて効果的に意思疎通を行うには、適切な呼吸をすることが不可欠です。それはどういうことなのか早速お教えます。呼吸法は多くの活動や修練に活用されています。呼吸の速さ、深さ、頻度や、肺のどの部分に空気を送り込むのかといったことが、自身の声、心、体をいかに上手く操って成果を出せるかに関わってきます。スキューバダイビングをするときとマラソンをするときでは、呼吸の仕方が違うはずです。スポーツをする時は、胸を広げて呼吸し、瞑想をする時には、お腹を広げて呼吸をするでしょう。緊張しているときは早く、浅い呼吸をし、落ち着いているときはゆっくりと安定した呼吸をするはずです。呼吸の仕方に正しい方法、間違った方法はありません。ただ、呼吸方法を変える理由とその方法を理解すれば、自身をコントロールする道具として呼吸を使うことができるようになるのです。    効果的なコミュニケーションを達成するためには、意識的に行う横隔膜呼吸がカギとなります。肺のすぐ下に胸腔と腹腔を分けるドーム状の筋肉があります。これが横隔膜です。この横隔膜が収縮、つまり緊張している状態では、筋肉が下に下がり平らになり、肺が拡張し空気でいっぱいになります。これが息を吸うときの状態です。筋肉が弛緩すると、横隔膜はもとのドーム状にもどり、肺を圧迫し、空気が押し出されます。これが息を吐くときの状態です。  肋骨の少し下あたりに手を置いてみてください。そしてちょうどヘソの上あたりを触ってみると、呼吸に携わるこの横隔膜を感じることができます。 ちょっと咳をしてみましょう。つぎは笑って。横隔膜が上下に大きく動いたことがわかったでしょうか。私たちはこの筋肉を1日2万回以上使用しています。始めは、意識して筋肉を動かそうとすると、その動きとは自分の感覚とは逆と感じられるでしょう。息を吸う時、横隔膜がリラックスしているように思えるかもしれませんが、実のところ、このとき筋肉は緊張した状態になっています。逆に息を吐く時は、横隔膜はリラックスした状態になりますが、もしかしたら、筋肉を使って空気を押し出しているように感じるかもしれません。ここでは、多くのメカニックが働いていて、どの筋肉がいつ、どのように動くかは、非常に巧妙にできています。    それでは、これから横隔膜呼吸について、それがどのような感じのものなのか、実際に行う時のコツを無理なく覚える方法を解説していきます。これから説明するエクササイズを行うことによって、横隔膜を使って大きく深い呼吸を意識的に行うことが簡単にできるようになります。腹式呼吸、丹田式呼吸と言えば、みなさんもう聞いたことがあると思いますが、ここでは横隔膜呼吸と呼ぶことにしましょう。  まず、片手をヘソのちょうど上あたりに置いて、もう片方の手を胸に置いてください。腹部に置いた手の下あたりの下腹部をリラックスさせましょう。「ちょっと食べすぎたな」というときに、お腹を膨らませるような感じで。力を抜いてリラックスしましょう。それが最初のステップです。次に、口から息を吸い込み、肺の奥深くまで空気を送り込みます。このときお腹に置いている手が動いているでしょうか。逆に胸に置いた手はほぼ動かないはずです。それがステップ2です。そして、口から「フーッ」と、英語の「F」を発音するつもりで、ゆっくりと一定のペースで息を吐きます。  このように(フーッ)。  この「F」の音を出すような息をするのには、いくつかの理由があります。もちろん、人前で実際に出すわけではありません。そうではなく、話を始める前に横隔膜呼吸に入るための動作として、体に覚え込ませるために使います。「フーッ」と息を吐き出すとき、一定した「F」の音が聞こえるか否かで、空気の流れが一定してるかどうかを感じることができます。  このように(フーッ)。 それでは、一緒にやってみましょう。  まず、お腹をリラックスさせて、それから口から息を吸って、肺の奥の方まで空気を送り込みます。そして、フーッっと息を吐きます。これを繰り返し練習することで、呼吸を最大限に利用し、多くの酸素を取り込むことが可能になり、豊かな声を生み出すことができ、明瞭なコミュニケーションの基盤を築くことができるでしょう。  早く、浅い、緊張した呼吸では、短絡的で散漫な思考しか生み出すことができません。何か言いたいことがあるとき、特に大勢の聴衆を前にするときには、横隔膜呼吸を行うことで、落ち着いて堂々と人前に立つことができます。呼吸が浅かったり、胸で呼吸しながら話すときは、緊張して震えたり、声が小さくなったりします。 こうした緊張状態は、しっかりとした横隔膜呼吸をすることで解消することができます。深く息を吸い込み、肺の奥底まで空気を送り込みます。しっかりと息を吐けば、喉頭と声帯を動かす筋肉が働いて、よりはっきりとした通る声を出すことができます。そして、この呼吸が、体全体に酸素を行き渡らせ、脳の冴えを良くし、筋肉機能の活性化に繋がるのです。    私たちは、色々な場面で、横隔膜呼吸を自然に使っていることが多くあります。自分が精通していること、例えば日常生活で昨日のランチは何を食べたか、今日あった出来事を誰かに話すとき、見解や助言を求められたとき、体は自然と横隔膜呼吸を行い、言葉がすらすらと出てくるはずです。  また、激情に駆られた時や切迫した状況に置かれた時には、横隔膜呼気をしていることに気付くでしょう。道路を横切ぎる子供を見て叫ぶような状況、事実無根のことで受けた非難に対して反論するとき、その直前には肺にたくさんの空気を送り込んで、深く大きな呼吸をしているはずです。  面白いことに、話を始める前に思考がまとまっていないとき、私たちは横隔膜呼吸とは違った呼吸をします。ずっと前に読んだ本の、ある部分を思い出すように言われたとき、あるいは、あまり知らない話題について説明するように求められたとき、あるいは言いたいことがまとまる前に話し始めるときは、気持ちに戸惑いがあるので、呼吸は浅くなっているはずです。  しかし、何を言えばわからないという状況に陥ったときも、一瞬で安定した呼吸を取り戻す方法があります。まとまったしっかりした思考を生み出すために一息おいて、それから横隔膜式呼吸で、ゆっくり深く呼吸し、言葉を発します。そうすることで、すぐに戸惑いの状態から脱して、すっきりした気持ちになるでしょう。またきちんとした呼吸から生み出された考えや表現で話せば、その声には、熱意、説得力、重要性や緊迫感が加わります。…

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